現在,細田研究室では以下の5つの研究プロジェクトが進められています.

  • 拮抗型空気圧アクチュエータを持つ脚ロボットの設計と制御
  • 拮抗駆動ロボットアームの開発と制御
  • 人間型柔軟指の開発と学習による適応的マニピュレーションの実現
  • 筋骨格赤ちゃんロボットの運動発達モデル構築
  • 生体由来デバイスによるバイオロボットの創成
  •  いずれも機構の設計のみ,あるいは制御の設計のみの問題を扱うのではなく,制御を想定した機構の設計と機構を仮定した制御の設計という,共創的設計こそがロボットの適応性を生み出すという仮説に基づいています.ここでは,それぞれの研究テーマについて詳しく紹介します.



     拮抗型空気圧アクチュエータを持つ脚ロボットの設計と制御


     空気圧人工筋を装備した2脚ロボットのリミットサイクル歩行

     1990年代から盛んに研究されている受動歩行ロボットはセンサやアクチュエータを一切持ちませんが,重力のみを利用して坂道を歩くことが可能であり,これは「身体に埋め込まれた知能」の好例といえます.本研究ではそのような身体性の生み出す知能のメカニズムを解明するために,受動歩行ロボットを基礎としながら,人間や動物の持つ筋骨格構造を組み入れた二足歩行ロボット「Pneumat-BT」を製作しました.

     駆動系として用いる空気圧人工筋肉は,圧縮空気の給排気により伸縮する直動式のアクチュエータで,内部の圧力に伴って弾性が変化します.この特性を利用し,拮抗駆動関節の角度や柔らかさを調節することができます.一方の制御系は「一歩行周期分の筋活性パターンを作成しておき,遊脚接地をトリガーとしてそのパターンを繰り返す」というシンプルな方法を用います.受動歩行ロボットを規範とした「歩行に適した身体構造」がこのような簡素な制御則での歩行を可能にすると考えられます.

     Pneumat-BTの歩行の様子を動画でご覧ください.柔軟性を持つ人工筋肉によって身体各部が結合されている結果として,人間に近い自然な歩行が実現されています.従来型の二足歩行ロボットは,与えられた軌道に常に追従しようとするため動きが不自然になりがちですが,このロボットは「力を抜くべきところを抜く」ような歩行であり,人間の知能の基盤をなす二足歩行の本質に迫っていると考えています.
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    歩行ロボット Pneumat-BT

    Paper


     二関節筋を含めた筋骨格構造を持つ人間型ロボットによる連続跳躍運動

     生物が実現する適応的かつ安定した運動の実現はロボット工学において非常に重要な課題です.これまでのロボットは見かけだけ人間を真似たものがほとんどであり,人間の身体の内部構造,つまり筋自身や筋骨格構造は考慮されていませんでした.

    本研究では筋骨格構造の中でも特に,生物に特有の二関節筋と呼ばれる筋の機能に着目し,運動と身体構造の関係の解明を目指しています.

    二関節筋とは1つの筋の収縮によって2つの関節が同時に駆動されるように配置された筋のことで,ほとんどの生物はこのような筋を持っています.跳躍などのダイナミック運動の実現においては,ロボットには高い関節トルクと適切な関節間の協調運動が必要となりますが,二関節筋はこの関節間の連動の実現に大きな寄与を果たしていると考えられています.
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    跳躍ロボット 空脚-K
    Paper


     ヒトを規範とした筋骨格構造を持つ二脚ロボットの動的ロコモーション

     三次元二足ロボットを用いて歩行だけでなく,跳躍や走行といったマルチモーダルロコモーションの実現を目指しています.アクチュエータとして,高出力かつ柔軟な空気圧人工筋を採用し,この人工筋を拮抗配置することで弾性可変な関節機構を有しています.さらに,各関節を駆動するための一関節筋だけでなく,二つの関節に跨った二関節筋も装備しています.この二関節筋を利用することによって,適応的な運動が期待できます.

     動画では,「Pneumat-BR」の連続跳躍と歩行から跳躍への遷移の様子を示しています.柔軟性を持つ人工筋肉によって身体各部が結合されている結果として,人間に近い自然な運動が実現されています.跳躍運動は,関節に適切な弾性を持たせることによって柔軟な着地を実現しました.まだ走行の実現には至っていませんが,それは今後の課題の一つです.
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    歩行・跳躍ロボット Pneumat-BR
    Paper


     二関節筋を含む筋骨格構造を持つ一脚ロボットによる跳躍運動の解析

     ヒトの跳躍中,単関節筋は長さを変化させて駆動源として,二関節筋は長さをあまり変化させずに力伝達要素として働くというように,役割が分割されていると言われています.

     二関節筋による力伝達が跳躍運動にどの程度寄与するのか,ヒトの脚構造と類似した構造を持つロボットを用いて実験的に解析を行いました.その例として,足首付近に存在する腓腹筋による関節間の拘束がある場合とない場合の動画を示します.腓腹筋による拘束がない場合は前方へ大きく回転が生じているのに対して,拘束がある場合は回転を伴わず,まっすぐ上方へと安定に跳躍を実現できていることが分かります.他の二関節筋についても同様に調査を行い,二関節筋による関節間の拘束が跳躍の安定性において有利に働くことが分かりました.

     ヒトは腓腹筋に拮抗する二関節筋を有しておらず,非対称な構造です.ヒトの脚構造と類似した構造を持つロボットを用いて,ヒトの脚構造の非対称性のなぞに迫りました.そして,この非対称性が跳躍の方向制御を可能にしている可能性を見つけました.
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     拮抗駆動ロボットアームの開発と制御


     空気圧アクチュエータを装備したロボットアームによる動特性を利用した運動生成

     高い出力質量比と剛性調節機構を持つマッキベン型空気圧アクチュエータを用いて,人型6自由度ロボットアームの開発しています.独自に開発した人型開放関節と橈骨-尺骨構造により,回内,回外運動(ドアノブを回すような動作)を実現し,関節可動域も人間に近いものとなっています.ダイナミックな運動を動画でご覧ください.
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    人型6自由度アーム

    Paper


     人型筋骨格系を有するロボットアームの二関節筋を利用したリーチング動作

     人の運動の研究の一つにリーチングがあります.人の場合はその手先の軌道が直線的になることや,速度の履歴がベルシェイプと呼ばれる単峰形となることが知られています.このリーチングの研究においては,様々な評価関数の最適化によって説明が試みられてきましたが,筋の構造とそこに存在する局所的反射の機能まで踏み込んだものはありません.

     本研究では人型6自由度ロボットアームにおいて,人に存在する肩と肘を同時に駆動する二関節筋や人の反射がどのように役立つかを,リーチング動作を対象として調べました.反射を模倣するためにセンサを人工筋に内蔵し,二関節筋を導入することで起こる関節の連動などにより,簡単な制御でも直線的で高速・安定したリーチングが行えることが示唆されました.
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     人間型柔軟指の開発と学習による適応的マニピュレーョンの実現


     触覚受容器を内蔵した柔軟な皮膚を持つバイオニックハンド

     人間の手を参考に,人工皮膚と筋骨格系を備えたロボットハンド(バイオニックハンド)を開発しました.ハンドの皮膚は大きさの異なる手袋を重ね,その間に触覚受容器(ひずみゲージ,PVDFフィルム)を含んだ剛性の異なる2層のウレタン組織を流し込んで作製し,理想的な変形特性と高いセンシング能力を実現しました.筋骨格系については,東京大学横井研究室と司機工エンジニアリングが共同で開発したワイヤ駆動式ハンドを,拮抗に配置した空気圧アクチュエータで駆動しています.

     人間の手は様々な対象に対して柔軟に,その形状に応じた把持姿勢を作り出すことができます.このような機能は,人間の手の巧みな構造によって実現されていると考えられています.バイオニックハンドは人間の構造を参考に設計されており,繰り返し握りこむだけで,対象をその形状に応じた安定な把持姿勢に収束させることができます(下記動画).我々はこのようなハンドの機能を利用して,ロバストな触覚認識を実現しました.
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    バイオニックハンド

    Paper


     筋骨格赤ちゃんロボットの運動発達モデル構築


     赤ちゃんの運動発達メカニズムの解明

     人間の認知・運動能力の基礎は乳児期に発達的に形成されますが,その詳細なメカニズムは明らかにされていません.観察や解析的手法に基づく従来の主な発達研究に対し,この研究グループでは,赤ちゃん型ロボットを用いた構成的手法によって運動発達メカニズムを解明することを目指しています.(構成的手法とは,ロボット等の人工エージェントに仮説となるモデルを埋め込んで環境中でのふるまいの観察し,モデルの検証と再構築のループを繰り返しながら現象の理解を試みるアプローチを言います.)

     乳児が環境との複雑で多様な相互作用を通じて発達することを考えれば,その相互作用を規定する身体性は,発達において非常に重要な役割を担っていると予想されます.我々は身体性の概念に着目しながら,その基盤となる筋骨格系を持つ赤ちゃんロボットを開発し,はいはいや二足歩行の獲得過程について構成的研究を進めてきました.環境との相互作用を通じて自律的に運動を発達させていく赤ちゃんロボットの実現が今後の大きな目標であり,人間の知能原理の理解および新しい知的人工物の創造へとつながると考えています.
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    赤ちゃんロボット1


    赤ちゃんロボット2

    Movie
    Paper


     生体由来デバイスによるバイオロボットの創成


     力学的刺激により機能と形態を獲得する筋細胞アクチュエータ

     生物の生体においては,その細胞レベルから環境適応機能,自己修復機能など従来の工学的デバイスには無い魅力的な機能が備わっています.そこで,本プロジェクトでは,生体そのものの機構が持つ優れた特性を最大限に活用した知能機械システムを目指して,生体由来デバイスをバイオロボットの開発を行っています.さらに,このようなロボットを開発することで,生物が本質的に有する「生き抜く能力」をその生体機構から構成論的に理解することが期待されます.

     以上のようなプロジェクトの一つとして,本研究では,パルス電圧により伸縮動作をする筋細胞アクチュエータを開発しました.近年,細胞の形態と機能は,遺伝子コーディングによる設計だけではなく,外部から受ける力学的刺激・物理的な相互作用に非常に強く影響を受けて獲得されていることが明らかになってきています.そこで,この研究では,マウス由来の筋芽細胞株(筋肉のもとになる細胞)に伸展刺激を加えながら培養する方法を採用しました.すると,筋線維(アクチュエータとして動作する細胞)への分化が促進されるといった興味深い現象が確認されました.さらに,現在は,光受容体とイオンチャネル機能を同時に有するチャネルロドプシン遺伝子を筋細胞に発現させることで,青色LEDの光刺激の入力で動作する筋細胞アクチュエータを開発しています.
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